「絶食療法について」

心療内科部長 千葉 太郎

 断食という言葉からは「修行」「厳しい」「道場」などのイメージが連想されると思います。
この断食を我が国の医療に導入したのは約50年前で、婦人科のいわゆる自律神経失調症を対象としたのが最初といわれています。
その後「絶食療法」と呼ばれるようになり心療内科領域を中心に行われてきました。
 当院ではこれまで、のべ23回の絶食療法を施行しており、そのうちのかなりの患者さんで効果を認めています。
方法は、現在の形の絶食療法を考案したのが、東北大学のグループであり「東北大学方式」と呼ばれており、その方式をとっています。 
すなわち絶食が危険を招く可能性のある疾患の有無をチェックし、これをクリアした後に10日間の完全絶食(絶食期)に入れ、その後は5日間かけて徐々に軟らかい食事から普通の食事に戻していきます(復食期)。
この15日間は個室に隔離されて外部との接触が禁じられ、テレビ、ラジオ、新聞、電話、郵便物などからも遮断されます。
担当医、看護師、お掃除をする人以外とは会えなくなります。
絶食期には1日に1000?の点滴を行い、水分(大抵は病院のお茶)を沢山摂取してもらいます。
全国の心療内科で行われている絶食療法は、多少のバリエーションはあるものの、基本的にはこの方法を採用しています。
 重篤な身体疾患や精神疾患のない人で、15歳から65歳の間にあれば施行可能であり、大まかにいえば心療内科で診る患者さんがよい適応になると考えられます。
過敏性腸症候群、過換気症候群、不定愁訴症候群、肥満症、緊張型頭痛やその他の疾患ですが、高血圧、軽症糖尿病、気管支喘息なども適応になります。
これらの疾患に対して絶食療法が速効性を示すわけではなく、半年後、1年後になってみると何となく、あるいはかなり良くなってきたと感じるのが治療後の一般的な経過です。 
患者さんは「どこがどうと言えないのだけれども何処かが変わった」ということが多く、また自分で気づいていなくても周囲から変わったといわれることが多く見受けられます。
自他覚症状の軽減のみならず、対人関係のあり方や、社会適応性などの精神面、行動面にも変化が現れます。
 治療者としてみていて、絶食療法前と比べて全く別人のように思えることさえあります。
すなわちスムースに会話ができるようなる、当たりが柔らかくなる、人間として練れてくる、人間的に成長したと感じるなどです。
仕事を休みがちであった人が休まなくなる、全く仕事をしていなかった人が仕事に就くようになることもよくあることです。
 なぜこのような効果が現れるのかは未だはっきりとは解明されていないのですが、大まかには「生体に絶食という強いストレスが加わって揺さぶりをかけられ、これが内在する生体の自然治癒力、抵抗力を賦活させて再調整がなされる」と考えられています。
 精神面では、個室に隔離されて絶食をするという外的刺激から遮断された状況では、自然に自分自身に関心が向かい、それまでの自分を十分に振り返ることができます。
普段は忘れている過去の体験が思い出され、それに伴う感情が強くわき上がってきます。
そしてこれらが心の中で整理されていくように思います。
さらには今後の生活をどのように送ったらよいのかが漠然と浮かんでくるようです。
 絶食療法の残された課題は、学問的には奏効機序の解明が、臨床的にはさらに有効性の高い方法の開発や対象疾患の拡大があげられます。
また疾患の治療に限らず、健康増進のための絶食療法なども今後検討されて良いでしょう。



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