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霧に消えたA’(Aダッシュ)                 報道部 北澤 俊一

 去る9月18日7時26分、『山と自然を愛でる会』の隊員18人は岩手山登山口を出発しました。今回の目的は、山頂を極めるのではなく、豪快な七滝を初めとする滝の数々を眺めながら、お花畑とお苗代池を探勝することでした。
 樹林帯を歩く内に、第2グループは、七滝で写真撮影に時間を使いすぎ、第1グループ10名の姿を見失ってしまいました。(そう信じていました。)
先発の第1グループの構成は吉田(順)先生、八木先生、検査科の村上さんご夫妻、則子さん&貞子さんコンビ、山好きMRさんを代表して宮さん、槐(えんじ)さん、菊池さん、川辺さんでした。
いずれも健脚自慢のメンバーでした。
後続の第2グループの構成は吉田隊長、坂本さん、日影舘師長と静さん、金崎君のザールスタッフ、東3階の小泉さんおよび著者夫妻のスローライフ派8人でした。
私たちは大きな遅れを取ったと思い、ピッチを上げました。
 急いで追わなくとも、どこかで、自然に会えるのが、今までの通り相場でした。
そこで、何も考えずに、渡河作戦、硫化水素地帯突破(著者は喘息発作を起こしかけました。)や45度以上あるガレ場の難所を蟹の縦這いで登り、3時間でお花畑に到着しました。
 花の盛期は既になく、卒塔婆のような枯れたコバイケイソウが林立し、彼岸供養のようにリンドウが数多く咲いていました。静寂が支配者であり、人の気配はありませんでした。
 お苗代池にも降りてみましたが、深い霧のため湖面の視界は1メートル程でした。
 突然の水音に、はっと振り向くと真っ白な鳥が一羽、水を切って飛び立ちました。
 日本武尊以来、白い鳥は魂を表すと言われています。湖の向こうに何があるのでしょうか。
 10人はひっそりとたたずむ宇宙船に、招かれ、時空を超えようとしているのでしょうか。
それとも、霧の向こうに理想郷アヴァロンの入り口があるのでしょうか。
 奥さんを失った隊長の悲しみはいかばかりかを計りかね、残り7人は無口でした。
先発隊がビールやカップ麺を持っているため、私たちはおにぎりと白湯を摂って下山しようと心を決めました。下で待っていればきっと会える…。
 と、その時兵馬俑のような足音と白雪姫のこびと達のハイホーが聞こえたと思った瞬間、第1グループ全員が霧の中から登場しました。
 隊長夫妻の再開は静かでしたが、eye to eyeで熱い想いを交わしていました。
互いの無事を祝って乾杯すると、みんな喜びのあまり、笑いさざめき、木道の上は宴会場でした。

         

 聞けば、七滝の手前に分岐があり、右折すると七滝に降りる道になります。
まっすぐな人たちはそこを、直進したそうです。枯れ沢を30分程登ったところで気がついて、元へ戻り速駆けで追いついたそうです。
 風と霧と川の流れは、意識野を狭くする3大要因だと思います。
 ビール、おにぎり、カップ麺、漬け物とメニューはいつもと変わりませんが、再会の喜びが調味料になり格別の味でした。
昼食の時、紀香さん(則子さんの愛称)に遅れた人たちはBチームだと言ったら、いいえ私たちは A'だと切り返されました。A'はAに優るのです。
 全員揃っての下山路、しんがりの四人が遅れました。およそ45度の急傾斜、土は滑りやすく、手にする岩は脆く、足が震えます。
 なにやら、高所恐怖症の女性隊員2名が、迫り来る恐怖と戦い、吉田隊長と金崎君の好アシストを得て、急斜面を無事に下りたそうです。晴れて視界が利けば怖くない斜面ですが、霧が絶壁を演出しました。

    

 柳沢から登ったグループの男性が一人、悪天候のため下山路を誤り、お花畑で我々と遭遇しました。
携帯電話が通じないため、電波が入る所まで行動を共にすることになりました。松川温泉で仲間と連絡がとれ、八幡平ハイツまで送り届けました。
 運が悪ければ、遭難したかも知れません。
翌々日その男性は菓子折を持って、吉田隊長を訪ね深く感謝したそうです。
 霧は人と人を離し、また近づける不思議な力を持っているようです。
 お苗代池は、晴れた秋には対岸の紅葉を水面に映し、美しいところだと聞きました。
 シャッターチャンスを狙って、もう一度登りたいと思っています。道が分かりにくくとも、硫化水素がつらくとも、急斜面に足が震えても、We shall returnでもう一度登りましょう。
 滝の音、清流の音がいつも聞こえる七滝コース、味わい深い登山道でした。
 あれから、一週間が過ぎました。
どうも、私にはA'の人々が、どこか変わったように思えてなりません。勿論、悪くではなく優しく親切になったように思います。これも、霧の魔法でしょうか。

 吹く風に 消息がつけばと おもえども 霧ふかきみなもに うつる影はなく
 
                                       詠み人知らず


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